妊娠も後期になってくると、さぞかし心もおだやかになって、のんびりと過ごせるものだろうと思っていた。
それは大きなまちがいだった。
どうしたわけかすこぶる情緒不安定な毎日を送るはめになっていたのだ。
妊娠中の情緒不安定についていろいろ調べてみたが、どの本にも
情緒不安定は妊娠初期に起こるもので、
つわりがおさまれば自然によくなる、と書いてあった。
わたしの場合はそれとはまったく正反対だった。
妊娠初期はつわりがひどかったものの、心はとても安定していた。
ところが6ヶ月ごろからしだいにその安定はくずれていった。
何事もマニュアル通りにはいかないもんだ、と思った。
そのころは自分をコントロールすることなんて、とてもできなかった。
コントロールできないから、些細なことですぐに泣いてしまうようになった。
それもしくしくと泣くのではない。なにしろ号泣してしまうのである。
こんなちょっとした本当に些細なできごとがあった。
ある朝、夫のすーちゃんを仕事に送り出そうと玄関に行ったら、
すーちゃんがおもむろに仕事のグチを言った。
わたしはなぜかすーちゃんのグチに衝撃を受けてしまったが、
「朝からグチ聞くのって、あんまりいい気分じゃないね」
とだけ言った。
すーちゃんが行ってしまったあと、わたしは泣き出した。
それはしだいにエスカレートして、大号泣になった。
すーちゃんとは毎日お昼にメール交換をしているのだが、そのメールに、
わたしは『なんだか涙が止まらない』と打った。
すーちゃんはすっかりうろたえてしまったらしく、電話をかけてきて、
自分が朝あんな話をしたせいだ、ごめんねと謝った。
わたしは結局夕方すーちゃんが帰宅するまでぐずぐず泣いていた。
すーちゃんはとてもやさしくしてくれた。
ほんとうに些細な軽いグチだったのに、なんでそうなってしまったのか
自分でもさっぱりわからない。
そのほかいろいろな些細なことで悩む日々は続いた。
胎児ぽんすけの性別が男の子だったとわかった時に、すーちゃんのお母さんに
「女の子がよかったのに」
と言われて、ひとりで大泣き。
不倫にはまってしまった友達が、頻繁に悩み相談の電話をかけてきて、
わたしは妊婦のことをなにも思いやってくれないなどと考えて、
軽いうつ状態。
こんなにしょっちゅう悲しんだり落ち込んだり怒ったりしているなんて、
もしかしてものすごく胎教によくない生活なのでは、
とさらに焦りも出てくるしまつ。
まるでちがう人間がわたしをコントロールしているかのようだった。
そんな時、さくらももこの妊娠生活をえがいたエッセイを読んだ。
その本には、
すべてホルモンが作用しているのだから、しょうがない。
そういうふうにできているのだ。
と書いてあった。
わたしはなるほど、と思った。
たしかにホルモンだから、しょうがないのだ。
情緒不安定になるままにまかせて、あとはなにも深く考えるのはやめよう。
という結論に達した。
こうしてわたしは、さくらももこさんのおかげで
気ままな情緒不安定生活を送ることができたのだった。