つわりがこんなに辛いものだなんて、想像もつかなかった。
とにかく気持ち悪くて、なにしろ24時間中1時間ほどしか起きて
いられない。
食べ物の好みは、ふだんと正反対になった。
あっさりした魚や煮物中心の和食が大好きだったのに、こってりした洋食や
洋菓子しか受けつけなくなった。
つわりになったら酸っぱいものが好きになるのが常識だと思っていたのに、
わたしはそれもダメだった。
酢の物もダメ、レモンも梅干しもダメ。
「食べつわり」というのがあるが、これはふつうお腹が空いたら
ビスケットなどをつまむと少しよくなるつわりのタイプなのだけど、
わたしの場合はこれとは少し違う食べつわりだった。
とにかくめいっぱいこってりしたものをお腹に詰め込まないと
楽にならないのだ。
ある日の献立。
朝:マーガリンとジャムをダブルで塗りたくったトーストを2枚。バナナ1本。ウィンナのソテー3本。
昼:お気に入りのカフェのクラブハウスサンド一皿。デザートに
生クリームの乗っかったワッフルとフルーツの盛り合わせ一皿。どちらも大きなお皿。
おやつ:インスタントラーメン。これは添加物だらけで胎児によくないと思いながらもやめられなかった。
夜:レストランでハンバーグセット。ふだんは牛肉をほとんど食べないわたし。
こんな感じ。今思い出すと逆に吐き気をもよおすような内容だ。
娠生活を通していちばんのお気に入りだった食べ物は、最寄りの
駅前にあるイタリアンレストランのライスコロッケ。
一口食べると、わたしは我が夫すーちゃんに、
「この世のものとは思えないくらいおいしいライスコロッケだね!」
と言った。
わたしはすーちゃんを驚かせてしまったらしかった。
すーちゃんは苦笑いしていた。
10ヶ月目の出産間近のころにもう一度そのライスコロッケを
食べに行った。
なぜか驚くほどおいしくなかった。
「もとからこのライスコロッケ、まずいよ」
とすーちゃんは言った。
妊娠とは、ある意味別の人間になることなのかもしれない、
とわたしは思った。
結局妊娠中につわりがなかったのは8ヶ月目の1ヶ月間だけだった。
わたしにとってのマタニティ・ライフは、イコールつわりライフ
だったのだ。